たった一人の要求で立てられた「スリップ注意」のバカ看板
 今回も「景観」の話題の続きです。

 前回のエントリーにも掲載した、東京・多摩センター駅前のペデストリアンデッキに立てられている「スリップ注意」のバカ看板。

多摩センター駅前ペデストリアンデッキの交通看板01.jpg

多摩センター駅前ペデストリアンデッキの交通看板02.jpg

 これについて、設置責任者(多摩中央警察署と連名)の多摩市に電話し、道路交通課の職員と話をしました。そのときの会話を再現します(2枚目の写真に写っている「喫煙禁止」のしつこい看板にも腹が立ちますが、とりあえず無視)。

 以下、わかりやすいよう、私の名前を福山(福山雅治)としておきましょう。
 まあ、名前なんてただの記号です。福山雅治が気にくわなかったら、レオナルド・ディカプリオとでも読み替えてください。ジョージ・クルーニーでもいいや。はっはっは。

──────

福山 もしもし。私、福山雅治またの名をレオナルド・ディカプリオと申します。そんなことはともかく、多摩センター駅南口のペデストリアンデッキに、自動車のイラスト付きで「スリップ注意」と書かれた看板が、何枚も立ってますね。ペデストリアンデッキは車道ではないし、物理的にも車が進入できないようになっています。あんなところに車を乗り入れるのは、ジェイソン・ステイサムくらいじゃないですか。それなのになぜ、自動車のスリップに注意しろ、という警告看板があるのでしょう。

職員 ペデストリアンデッキに、自動車のスリップ注意の看板ですか……。ちょっと確認してみないとわからないので、お時間をいただけますか。

福山 わかりました。数日後にまたお電話します。なお、このような看板が立てられた経緯についても知りたいので、調べておいてください。よろしくお願いします。

《数日後》

福山 もしもし。私、福山雅治またの名をレオナルド・ディカプリオと申します。そんなことはともかく、注意看板についての問い合わせなのですが。

職員 はい。まず、現地にそのような看板があることは確認しました。それで、おっしゃるようにペデストリアンデッキにあの看板はおかしいので、自動車のイラストがない看板に立て替えることにしました。

福山 ちょ、ちょちょちょちょちょちょちょちょっと待ってください。するってえとなんですか。今後は自動車のイラストがない「スリップ注意」の看板が立ち並ぶ、ということですか。

職員 はい、そうです。

福山 それは、誰に向けた「スリップ注意」の看板なのでしょう。

職員 歩行者ですね。

福山 私には今ひとつ理解できないのですが……。その場合「スリップ」とは、具体的に何を意味しているのでしょう。

職員 たとえば冬の日の朝、道路が凍結すると滑りやすくなりますよね。そのようなときに注意をうながすための看板です。

福山 つまり「スリップ」とは、歩行者が「滑って転ぶ」ことを指してるんですか?

職員 そうですね。

福山 あのー。多摩センター駅前のペデストリアンデッキは、凍結すると特に滑りやすい材質でできているとか、ものすごく転びやすいデザインになっているとか、そのような不具合でもあるのでしょうか。

職員 そういうわけではありませんが……。

福山 ですよねー。私もあのペデストリアンデッキを何度も通ってますが、ほかの道路と比べ「滑りやすくて危険だなあ」と感じたことはありません。それなのになぜ「滑って転ばないよう注意しろ」の看板が必要なのでしょう。そもそも現在の看板はいつ、どのような経緯で立てられたのでしょう。

職員 経緯については、申し訳ありませんが資料が残っていないので、よくわからないんです。たぶん、実際に歩行者が凍結したペデストリアンデッキで転倒し、市に「注意看板を立てるべきだ」という要望をお出しになったから、立てられたのではないかと思います。

福山 資料が残ってないのは仕方ありませんが、率直に言って、その説明では納得できないですね。まずお聞きしたいのは、「転倒して市に注意看板設置の要望を出した歩行者」というのは、何人くらいいたのでしょうね。10人でしょうか、50人でしょうか、100人でしょうか。

職員 おそらく……お一人だと思います。

福山 私もそうだろうと思いますよ。あのペデストリアンデッキが、短期間に何十人も転倒するほど滑りやすい構造だとは思えませんからね。それにもし、そのような危険な場所であったとすれば、必要なのは凍結しても転倒にくい道路に改修するというような物理的な対策であって、看板を立てて注意をうながすことではありませんよね。

職員 おっしゃるとおりですね。

福山 つまるところ、その要望を出した歩行者は、何も問題のないペデストリアンデッキなのに、自らの不注意で滑って転んだだけじゃないですか。たった一人の歩行者が不注意で転び、要求してきたからといって、「転倒注意」の看板をあちらこちらに立てるというのは、過剰反応だと思いませんか。

職員 ただ、市民の安全を守るのは自治体の役目なので。

福山 ですから。さきほども申し上げたように、あのペデストリアンデッキが特に転倒しやすい構造になっているなら、それはすみやかに改修工事をすべきであって、看板を立てれば解決する問題ではありません。でも、そもそもあのペデストリアンデッキは、転倒しやすいわけでもなんでもないんですよ。それは市も認めるわけでしょう? どんな道路でも、路面が凍結すれば滑って転びやすくなるのは当たり前なのだから、要望を出した歩行者がペデストリアンデッキで転んだのは、ただ自分が注意を怠っただけじゃないですか。凍結した道路を歩くとき、転ばないよう自分自身で注意するのは、人間として当然のことですよね。

職員 それは、おっしゃるとおりですが……。

福山 それなのに、なぜ現在の看板を撤去した後、わざわざ歩行者向けの注意看板を立てる必要があるのでしょう。看板の設置には税金を使うのだし、管理やメンテナンスにも費用がかかります。たった一人の歩行者、それも自分が転んだことを市や道路のせいにする歩行者の一言で、そんな無駄遣いをする必要があるのでしょうか。それに、市がわざわざ「転倒注意」の看板を立てるということは、「このペデストリアンデッキで歩行者が転んだら、それは市の責任である」と認めることにもつながるんじゃないですか? 別に整備を怠ったわけでもないのに、わざわざ自らに責任があるかのような看板を立てる必要なんかないじゃないですか。

職員 ……。

福山 あのですね。どんな道路でも凍結すれば転倒しやすくなるのは当たり前なのだから、「注意をうながせ」という要求にいちいち応えていると、道路という道路が「転倒注意」の看板だらけになりますよね。どこもかしこも「転倒注意」と書いてあるということは、逆に言えばどこも等しく「転倒に注意する必要がない」と言っているのと同じです。道路を注意看板だらけにするというのは、そういうことを意味してるんですよ。

職員 ……。

福山 そもそも、その歩行者は自分が転倒したからといって、ペデストリアンデッキを通る誰もが看板で注意されるべきだと要求しているわけですよ。これって、ものすごく人をバカにした考えだと思いませんか。私はわざわざ看板で注意されなくても、凍結した道路は注意して歩かなければ、転倒することぐらい知っています。そんなの、小学生にでもなればわかることですよ。

職員 ……。

福山 もちろん「ここは凍結しているから気をつけよう」と思っていても、転倒するときはします。私だって冬の凍結した道路で転んだことぐらい何回かありますよ。でも、それは仕方のないことだと思っています。道路が陥没していたとか不自然な急斜面があったとか、明らかな不具合のせいで転倒したなら「私が転んだのは、道路の整備を怠った市の責任だ」と文句を言うかもしれませんが、そうでなければ「転んだのは自分の注意が足りなかったせいだ。仕方がない」で済ませるしかないじゃないですか。

職員 ……。

福山 そもそも「看板を立てろ」と要求してきた歩行者は、すでに一度転倒したのだから「自分は、このペデストリアンデッキが凍結すると滑って転ぶ人間だ。気をつけなければいけない」と学習したはずですよね。本人にとってはそれで十分であって、無数の赤の他人に同じ注意をしろ、と市に要求する必要はないはずです。だいたい「転倒注意」と書いた看板を立てたからといって、実際に転ぶ歩行者が減るとはとても思えないのですが、あなたは本当にそんな看板に効果があると思いますか?

職員 ……。

福山 それに「転倒注意」の看板というのは、一度設置したらそのままそこに立ち続けるわけですよね。「冬に路面が凍結すると危険だから看板を立てる」とおっしゃいましたが、それなら、真夏の日中でも「転倒注意」の看板があるのは変でしょう。というか現状の「スリップ注意」の看板が、すでにそうなっているわけですよ。まじめに看板の注意書きを読む私のような人間は、その看板を見て不思議に思ったり、不快感を覚えたりするだけです。何も感じない人たちは、そもそも看板が目に入ってないか、内容を理解しようという気がないということです。そんな看板になんの意味があるのでしょう。

職員 ……。

福山 私がなぜ看板について、ここまであれこれ申し上げているかというと、あの黄色い地に赤い文字のドギツイ看板が立っていると、それなりに落ち着きのあるペデストリアンデッキの景観が台無しになるからですよ。原色の毒々しい看板が鬼のツノのように突き出ているせいで、周囲の雰囲気をぶち壊しています。無意味で汚い看板を立てるより、せっかく開発した多摩センターの景観を保つことを優先しよう──そんな発想も大切ではないでしょうか。

職員 ……。

福山 それから、ちょっと話を戻しますが、そもそも今の看板は、なぜ「自動車のスリップに注意」になっているのでしょう。歩行者に注意する目的で立てたのに、自動車のイラストが入っているのはおかしいですよね。設置するとき、誰もそう思わなかったのでしょうか。

職員 そのようですね……。

福山 あの看板を立てようと企画し、制作し、設置するまでに、何人もの関係者が看板を見ているんでしょう。誰一人おかしいことに気づかなかったんですか。

職員 ……。

福山 それはつまり、無意識のうちに「こんな看板、どうでもいいんだけどね」と思ってるからじゃないんですか。とにかく、現在の看板を撤去した後に新しい看板を立てるのはやめていただきたいですね。せっかく整備したペデストリアンデッキなんだから、無駄で汚らしい夾雑物は少しでも減らしましょうよ。これで、私が言いたいことはすべて申し上げたのでよろしくお願いします。

──────

 会話の中に書きそびれましたが、この看板について市に問い合わせをしたのは、私が初めてのようです。多摩センター駅前のペデストリアンデッキは一日何千人か、何万人かの人が通っているはずなのに、これまで誰一人、あの看板について「おかしいのではないか」という意見を寄せた人がいない。これが一番残念なことです。

 まあ、何をどう言っても、新しい「歩行者の転倒注意」の看板は立てられ、無意味な警告を発し、ペデストリアンデッキの景観をみすぼらしいものにし続けるんでしょう。
 もし、多摩センター付近の住人で、この「人様を何もわからない幼児扱いする看板」に腹が立つ人がいたら、多摩市に苦情を言ってはいかがでしょうか(いるとすれば、ですけどね)。
 「滑って転ぶの注意!」と言われバカ扱いされるのは、この看板の前を通るすべての人なんですよ。

 次回もまた、景観(看板)の話が続くと思います。
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カテゴリ:景観
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Author:静かな街を考える会 別館
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