JR東日本のトイレットペーパーと日本の景観
 「JR東日本が『歩きスマホ』」防止に奇策 トイレットペーパーに印字」というニュースを目にしました。

JR東日本が「歩きスマホ」防止に奇策 トイレットペーパーに印字.jpg

 今回はこの話題から、一気に「景観」の問題に話を広げてみたいと思います。着地点がどこになるか、自分でもわかりません。しばらくは、まとまりのない能書きが続くと思います。

 記事によればJR東日本が今月から、主要駅のトイレに「やめましょう、歩きスマホ。」とびっしり印刷したトイレットペーパーを導入(とりあえず「なくなり次第終了」らしい)。それを見た人たちがツイッターで「すごい」「軽い狂気を感じた」など驚きの声を上げたそうです。

 なるほどねえ。

 私も、このトイレットペーパーには“狂気”を感じました。「軽い」どころか非常に重篤な狂気を感じましたね。
 ただひとつ言いたいのは、この程度の狂気は、トイレットペーパーなんかネタにしなくても、街のあちこちに日頃から溢れているじゃないかということ。「ああしましょう、こうしましょう!」「気をつけましょう、注意しましょう、やめましょう!」「こっちを見ましょう、買いましょう!」と、いたる所で浴びせかけられるアナウンスや絶叫には狂気を感じないくせに、「歩きスマホ」のトイレットペーパーには、ニュースになるほど(といっても、ネットならではの暇ネタですが)反応があるのはなぜなのか。
 駅のホームに限っても、トイレに入らなければ目にすることのないトイレットペーパーより、電車に乗れば必ず聞かされるアナウンスのほうが、私はよほど狂気を感じます。

 駅メロという場違いな音に「駅で音楽を聞かされたくない」と苦情を言うと、鉄道会社は「発車を知らせるサイン音ですから」などと言ってきます。しかし、駅メロが鳴り終わっても電車のドアが閉まるわけじゃない。大抵はそこからあらためて「3番線ドア閉まります。危険ですから駆け込み乗車はおやめください」といった大音量の自動アナウンスが流れます。そして、自動アナウンスが終わると立て続けに駅員が「はい3番線ドア閉まりまーーーーす駆け込み乗車はおやめくださーーーーーい!」と同じことを絶叫する。

 ひどいときには(というか当たり前のように)「チャンチャンチャンチ3番線ドはい3番線ドア閉まりまーーーーす駆け込み乗車はおやめくださーーーーーいア閉まります。危険ですから駆け込み乗車はおやめください」などと、駅メロを途中でぶった切って自動アナウンスが流れ、自動アナウンスをぶった切って駅員が叫び、また自動アナウンスの音が金魚の糞のようについてくる、というようなわけのわからない放送が数分置きに繰り返されるのです。

 このような放送が“狂気”でなくてなんなのか。駅メロは「今なら乗れるぞ」という駆け込み促進の合図にしかなってないし、自動アナウンスも分断されて意味はない。最初から駅員が「ドア閉まります」と言えばいいだけじゃないか。

 駅では、電車が発着するたびに「黄色い線の内側に下がれ」「足元に気をつけろ」「左右をよく見て空いたドアから乗れ」「降りる客がいなくなったら乗れ」「銃を捨てて手を頭の後ろで組めおーっと妙な気を起こすんじゃねえぜ」などと幼稚な指示をされ続けます。そして私が危惧していたとおり、ホームドアの設置が進んだため、そこから「ピンポーン」などの音が出るようになって、駅がさらなる騒音地獄と化してしまいました。

 ホームドアは線路への転落を防ぐ最も有効な手段だと私も思うし、設置には大賛成なのですが、いちいち開け閉めのたびに「ピンポーンピンポーン」と鳴るのはたまったものではありません。まあ、ホームドアが設置されれば「黄色い線の内側を……」というアナウンスは不要になるから、少しは駅が静かになるかもという淡い期待──は、はなからしていなかったのでがっかりもしませんが。

 階段からは「チュンチュンチュン」と、そこにいもしない不自然な鳥の鳴き声が響き、エスカレーターからは「手すりにおつかまりください」、エレベーターからは「1階ホームです。こちら側のドアが開きます」。改札口でも「ピーンポーンピーンポーン」「ピッピッピッピッ」「秋の東北旅行に出掛けてみてはいかがでしょうか」

 こうした、いくら書いても書ききれないほどの音の洪水は受け入れているのに、今回のトイレットペーパーにだけなぜ波紋が起きるのか。
 ま、それだけ気狂い沙汰のアナウンスが当たり前のものになり、誰も“狂気”を感じなくなってしまった、ということなんでしょう。精神病院に入っている人間は自分が狂っていることに気づかない、という構図とじつによく似てますねえ……。

 ともあれ、今回は冒頭に書いたとおり、ここから「景観」の話につなげたいと思っています。なぜなら、トイレットペーパーに印刷された“狂気のメッセージ”は、アナウンス地獄と通底する問題でもあるけれど、文字であるという点では看板を初めとする景観の問題により近しいからです。

 まだまだ能書きが続く。

 「静かな街を考える会」やこのブログのメインテーマは、スピーカー騒音です。サブテーマとしては近隣騒音もありますし、主に接客の場で不快な思いをさせられる言葉遣いや態度の問題も取り上げています。

 サブテーマにはもうひとつ「景観」もあります。ただこれまで、このブログで景観については「不動産業者の捨て看板」のこと(下記の関連記事参照)しか書いてきませんでした。
 それはなぜかというと、騒音に加え景観のことまでぶちまけ始めると収拾がつかなくなりそうだったから。また、近年は不動産業者の違法看板の増殖が目立ってひどく、個人的に憤懣やるかたない気持ちが抑えられなかったからです。一人で吉木りさ10万人分くらい怒ってます。さとう珠緒150万人分でもいいけど。

 もうひとつ、景観についてほとんど書かなかった理由は「騒音は耳を塞いでも防ぐことができない。でも、視覚の問題は目をそらしたりすれば意識から排除することもできる」という、じつに単純な違いがあるからです。

 スピーカー騒音には、家にいてもさらされます。防災無線、広報車、ごみ収集車の音楽、廃品回収、移動販売、救急車の過剰なサイレン、選挙カーや政治屋の演説、夜回りに火の用心、バスやトラックの警告音など、家の中にいても防ぐことができないのが「音」の特徴です。それと比べ目から入る情報である景観は、少なくとも自宅でへらへらしている最中に悩まされることはない。この違いはやはり大きいものがあります。

 そうはいっても、現実に「ごちゃごちゃと」「下品で」「汚らしく」「押しつけがましい」この国の景観には、外に出るたびイライラします。
 景観の問題と一口に言うけれど、それにはどんな要素があるのか。箇条書きにすればこうなります。

●高さも色もデザインもバラバラなビルや家屋、それが乱立する街並みそのものの醜さ
●コンクリート、フェンス、生垣など、素材にも形にも色彩にも統一感のない住宅地の塀
●ハコモノ行政が建てる、その土地の風土とそぐわぬ異様な姿の建造物
●乱立する電柱、空中にとぐろを巻く電線
●企業や商店のけばけばしい看板、のぼり、垂れ幕、ポスター、貼り紙
●役所・警察・自治会・学校などが立てる幼稚な注意道徳スローガンの看板、のぼり、垂れ幕、ポスター、貼り紙
●街のあちこちに貼られている政治屋どものポスター
●やたらめったら設置され、目の前の風景フレームを分断するガードレール(じつは、この問題に言及している人を見たことがない)
 など。

 一般に、多くの人が「景観を守ろう」「美しい風景を残そう」と言い始めるのは、「由緒ある神社の横に高層マンションを建てるな!」「自然豊かなこの川にダムは必要ない!」などという、じつにわかりやすい問題が持ち上がったときだけです。

 この主張はもっともだし私も異存ありませんが、どうも日本人はこうした「歴史や自然と人工物を対比させた場合の景観保全(特にダムだの基地だの空港だの、政治・イデオロギーや財産権が絡んだ問題)」にはある程度熱心だけれども、すぐ目の前でおこなわれている、日常生活の中での景観破壊の積み重ねには完全に無頓着です。
 「まちをきれいに!」などと原色ギラギラののぼりを立て、自ら街を汚していることにもまったく気づきません。

 それはいったい、なぜなのか。長くなったので、まとまりがつかないまま次に続きます。
 次回は経済学者・松原隆一郎氏の著書『失われた景観―戦後日本が築いたもの』などを引用しながら書くことになるんじゃないかと思います。
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Author:静かな街を考える会 別館
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