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「とりわけばかばかしい」エスカレーターの注意放送
 中国文学者の高島俊男氏が『週刊文春』に連載していたエッセイ「お言葉ですが…」に、駅のアナウンスと防災無線の騒音に憤慨している回がありました。
 文庫版第3巻『お言葉ですが…(3) 明治タレント教授』(2002年)から紹介します。

――――――

エンドレステープを憎む

 ちかごろ最も深い共感をもって読んだ本は、中島義道さんの『うるさい日本の私―「音漬け社会」との果てしなき戦い』(洋泉社)であった。

 題に言う通り、これは騒音との戦いの記録である。著者の中島さんは、日本の社会に満ちあふれるさまざまの騒音と、敢然として、ほとんど身命を賭して戦うのである。

 共感したのは、わたしもまた中島さんと同様、うるさい音にたえられぬ者であるからだ。もっともわたしは中島さんのように勇敢ではなく、避けられるかぎり避け、避けらねば一人で腹を立てているだけなのだけれど。

 むかし、東京に二十年ちかくいて十ぺん転居した。あのアパートはむかいの洗濯屋が一日中ラジオをつけっぱなしだった、あの下宿の二階は近くの小学校の校内放送がやかましかった、あすこは斜めむかいの部屋の仏文の野郎が真夜中になるとフランス語のテープをヴォリュームいっぱいにかけやがった、とみな音でおぼえている。

 この仏文の野郎に、このあいだ東京へ行った時ばったり出くわしたのには驚いた。無論先方は気づかないが、こっちは見たとたんにわかった。食いもののうらみより音のうらみだ。二十代の学生だったのが五十代か六十代かのオッサンになっていたが、蛙のように無神経なツラつきはすこしも変っていなかった。

 たまに東京へ行って一番感心するのはエスカレーターである。どこでもみな、人が左側に一列に立って、右側を急ぐ人のためにあけてある。関西とくらべて、えらいもんだなあ、と感にたえる。

 それよりももっとうれしいのは放送がないことだ。東京のエスカレーターは静かに動いている。こちらも心静かに乗っていられる。

 「なかでも私にとって苦痛なのは、くりかえしのテープ音である」と中島さんは書いていらっしゃる。まことにしかり、あらゆる騒音のなかで最もたえがたいのは、あの同一文句を無限にくりかえすエンドレステープだ。そのテープのなかでも、とりわけばかばかしいと思うのがエスカレーター放送である。たかがエスカレーターに乗るのになんでああもクドクドと注意を受けねばならぬのか。

 中島さんもこの本を、京都駅のエスカレーター放送の全文紹介からはじめている。

 「手すりをしっかり握って黄色い線の内側に……」「お子様はかならず手をつないで……」「長靴はすべりやすいので……」「逆方向に走らないように……」等々々とくりかえすあれだ。そのしつこさ、程度の低さは、まさしくこの本の開巻冒頭を飾るに足る。

 わたしは平生湖西線(京都を起点とする)の沿線に住んでいるので、どこへ行くにも京都駅を通らないでは行けない。中島さんは「京都駅ビル正面のエスカレーター放送」と書いていらっしゃるが、駅構内のエスカレーター放送はみな同じである。わたしは無論エスカレーターには乗らない。並行してある階段を脱兎の如くのぼりおりするのであるが、それでもこの憎むべき放送はいやでも耳に入る(階段を脱兎のごとくのぼりおりするのはあの放送を耳に入れたくないからである。元気みちあふれて駆けているわけではありません)。

 京都駅はついこのあいだまで大規模な改築工事をやっていた。この時はもっとひどかった。「ただいま工事をいたしております」「通路がせまくなっております」「御理解と御協力をお願いいたします」というたぐいの放送を、構内のあらゆる場所で、工事の期間中ずーっと、何万回とも何百万回とも知れず無限にくりかえし流しつづけていた。プラットフォームで湖西線の電車を十五分も待っていようものなら、もう気が狂いそうになる。とにかく京都駅にいる時間を一分でも短くするためにわたしはいつも時刻表と首っぴきだった。

 この放送は完全に無意味である。工事をしていることは「いたしております」と教えてもらわなくても見ればわかる。「御理解と御協力」にいたってはまったくナンセンスだ。

 わたしは京都駅から新幹線に乗って豊橋の学校へかよっていた。同じ時期に豊橋駅も同規模の工事をやっていた。しかしこちらは何の放送もなく、静かなものであった。JRだから愚かしいのではない。要は駅長の人物なのだろう、とわたしはいつも思っていた。

 わたしの乗る湖西線の駅では、いかなるばあいもテープは一種類、「まもなく列車がまいります。キケンですから白線の内側におさがりください」の一本槍である。これをかならず、ばかみたいに二度くりかえす。

 電車を待っていると、その直前に特急列車が通過することがある。それが近づいてきた時にもこの放送をやるものだから、知らない人は線路のほうに歩み出て、目の前を轟然と通りすぎる特急にびっくりする。

 「列車がまいります」と言ったら、「あなたがたの乗るのが来ますよ」の意に解するのは当然ではないか。そんなことはおかまいなしなのである。

 またこの放送の、キケン、キケンと鋭いK音をくりかえす音は非常に耳に立つ。そもそも駅に電車が入ってくるというのはしごく正常なことであって、何も危険な行為ではないのだ。

 駅の放送の最低要件は、つぎに来るのが「止まるのか通過するのか」「どこ行きか」「各駅停車か飛び飛びか」を客に知らせることである。それを知らせる親切がないのならいっそやめといたほうがよい。

 京阪電車にもよく乗るが、これは何も放送がない。電車は静かなプラットフォームに黙って入ってきて、黙って出て行く。それで乗りそこなう客も電車に衝突する客もいない。いるわけがない。放送なんぞはなくていいのである。

 ではなぜJRはあんなにやかましくテープを流すのか。万が一、十年に一度か二十年に一度事故があった時に、「キケンですとくりかえし注意しておりました」と言いぬけるためである。客の身を案じてではなく、わが身を守るための放送なのだ。これはエスカレーターも同じ。JRは愚劣なだけではなく、悪辣なのである。まあ豊橋の駅長さんだけは別としときますけど――。('97・9・18)

――――――

 この回が雑誌に掲載されたのは1997年のようです。私は関西にはまったく縁がないのですが、数年前に生まれて初めて京都に行き、いろいろな「音」にうんざりしました。それについては「京都」のカテゴリに書いているので繰り返しませんが。

 高島さんは「エスカレーターに乗るときは手すりにつかまり、黄色い線の内側に立って……」などのアナウンスが東京では「ない」と書いていますが、それはまあ、たまたま高島さんの乗るエスカレーターが、あまりこの放送をしないか音量の小さいものばかりで、気づかなかっただけかもしれません。
 もしかすると、このアナウンスは東京より関西のほうがはるかにうるさくて、東京にいるときはあまり気にならなかった、という地域性の違いもあるのかもしれませんけど。

 そもそも、少し注意を向けるとよくわかるのですが、エスカレーターのアナウンスは、鉄道の駅よりデパートやスーパーなど商業施設のほうが、しつこくてやかましい傾向にあります。駅では、この放送をしていないエスカレーターも意外によくあるほどです(少なくとも東京は)。

 やっぱり、駅の利用者は基本的に大人を想定しているけど、商業施設は子供や親子連れにも「最大限の配慮をしなければならない!(配慮しているふりをしなければならない!)」と考えるから、「よい子のみなさん!」というお決まりの枕詞をつけて、クドクドクドクド「手すりにつかまり、黄色い線の内側に立って……」と始まってしまうのかなと思います。もちろん私の勝手な推測ですが。

 でも、「よい子のみなさん!」というこの言葉ほど、気持ちの悪いものはありません(うちの近くでは、特に大音量でうるさいのがイトーヨーカドー!)。
 だいたい、こんなアナウンスで注意しなければならない子供は、その時点で「よい子」じゃないんだから、放送するなら「おいクソガキ! 手すりにつかまらねーとあぶねーのがわかんねえのか! てめえに何かあったらうちらが責任とらされるんだから、おとなしく乗ってろ! そこの親もヘラヘラしてねーで、てめえのガキぐらいてめえで気にかけとけ!」とでも言ってやればいいんです。ほんとに。

 「たかがエスカレーター」ごときで、いちいち「ご注意ください!」と放送するから、万が一にも事故が起きたとき、利用者が「こんな危険なものを設置して、事故に遭わせるなんてひどい! 謝罪しろ! 補償しろ!」と詰め寄ってくるようになる。よけいな「お客様意識」を高めてしまうのです。それで困るのは駅や商業施設なのだから、いっそこんなアナウンスはなくして、何かあったら「エスカレーターぐらい、注意されずに乗れないんですかあ?」とでも言ったほうがいい。

 「前から爆弾が飛んできます! 伏せてください!」「あなたの目の前にナイフを持った通り魔がいます! すぐに逃げてください!」という緊急事態じゃないんだから、ただエスカレーターに乗るだけで、いちいち「ご注意」されなきゃ安心できない人、「もっと注意してよ! それがやさしさでしょ!」なんて要求する人たちこそ、町にうるさいアナウンスを氾濫させている真の「加害者」です。

 私も高島さんと同じように、エスカレーターでこのアナウンスが流れていると、それを避けるため「並行してある階段を脱兎の如くのぼりおり」します(おっさんだから「脱兎の如く」どころか、ヒーヒー言いながらですが)。あまりにも階段が長くて辛そうな場合は、遠回りしてでもエレベーターを探しますね。
 エレベーターも「2階、改札階です(1階と2階を往復するだけなのに!)」「扉が開きます(開いてもらわなきゃ困るよ!)」など、愚にもつかない音声案内ばかり流しますが、エスカレーターの「繰り返しアナウンス」と比べればずっとましです。

 それから、これはアナウンスとは関係ないのですが、高島さんは東京のエスカレーターが「人が左側に一列に立って、右側を急ぐ人のためにあけてある」ことを「えらいもんだなあ」と褒めてますが、ほとんどの人がこの「ルール」に従っているところを見ると、やっぱり世間では支持されているんでしょうか。
 私はどうも、この乗り方が嫌で嫌で仕方ありません。

 特に駅の場合がそうですが、電車が到着しちょっと人が増えると、このルールのせいでエスカレーターの左側にだけ長蛇の列ができてしまいます。エスカレーターに乗る時間が20秒なのに、列に並ぶ時間が1分も2分もかかる、なんてこともざらにあります。

 「早く行きたい奴は、右側を歩けばいいだろ!」というのが今のエスカレーター利用の「暗黙の了解」なんでしょうが、そもそもエスカレーターは歩行するものじゃなく立ち止まって乗るもののはず。幅が狭く、立っている人の脇を歩くようには設計されていないのだから、ちょっと荷物があったり、左側の人が右のほうまではみ出したりしていると、途端に前がつかえて、狭い空間を苦労してすり抜けなくてはなりません。それって、エスカレーター本来の使い方とは違うと思うんですが。

 右側を空けず、最初から全員2列で乗れば、誰もがもっとスムーズに移動できるはず。なぜ、片側しか本来の活用法をしないエスカレーターの乗り方が「世間のルール」になってしまったのか、私には理解できません。

 それに、エスカレーターに乗るとき、いちいち前の人との間を1段空けて乗る奴ばかりというのも、気にくわないですね。そんなに自分の真後ろに人が立つのが嫌なのか? 自分が人の真後ろに立つのが嫌なのか? 1段後ろに立つ(立たれる)のと、2段後ろに立つ(立たれる)のと、何がそんなに違うのか?

 ガラガラに空いているときならともかく、長蛇の列ができるほど人がいても、平気な顔で1段ずつ間を空けて乗る。それが当たり前になってしまっている今のエスカレーターのルールが、どうも私にはまともとは思えません。
 こんなルールが「常識」になってしまっているから、せっかくテンポよくエスカレーターまで歩いてきたのに、前の人がその前の人と1段(ヘタをすると2段も3段も)空けようとして立ち止まるせいで、後ろが詰まってたちまち「渋滞」してしまうなんてこともよくあります。

 エスカレーターで、自分の後ろの段に人が立つことが「不快でしょうがない!」「自分も立ちたくない!」と考える日本人。こういう(あえて言えば)小さな、何気ない行動様式をみても、私は「人と人とのふれあいが大切だ!」などと掛け声だけはかっこいいくせに、少しでも他人が自分の感覚領域に近寄ると、とてつもない警戒心と不快感を露わにする日本人の欺瞞性を感じますね。

 エスカレーターでは、左側だけでなく右側にも乗る。そうすれば行列が2分の1の長さになります。さらに1段ずつ空けるのではなく詰めて乗れば、一度に今より4倍の人がエスカレーターに乗ることができて移動が楽になる。それなのに「左側にだけ、前の人と1段空けて乗る」というおかしなルールが定着してしまっている現状に、私はイライラするばかりです。
 アナウンスとこのルールの二重苦のせいで、私はできるだけエスカレーターを避けています。めんどくせえなあ!

 高島さんのエッセイは、このあと、防災無線の放送から逃げるため引っ越しを余儀なくされたエピソードに続くので、次はそれも紹介したいと思います。
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Author:静かな街を考える会 別館
市民グループ「静かな街を考える会」会員のブログ。日本の街にあふれるスピーカー騒音や絶叫騒音、うるさい接客、醜い景観などの問題について書き綴っています。

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