30年前より劣悪な音の後進国「日本」
 92歳の現役ピアニストとして話題になっている、室井摩耶子さんという方がいます。日本では超有名というわけではないようですが、30年近くヨーロッパで活躍後60歳を過ぎて日本に戻り、現在もリサイタルを開いたりCDを録音したりしているという、なんだかすごい人です。

 その方の『ひびきを求めて―ピアニストからのメッセージ』というエッセイ集(といっても、30年も前の著書です)をパラパラとめくっていたら、日本のあまりにもひどいスピーカー騒音事情に腹を立てている一文を見つけました。

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 親切過剰

 私は朝からピアノの勉強に熱中していた。曲をある程度ひきこむと、それからは逆にひたすら曲の中にひきこまれ、坂道をころがりおちるように集中へとつき進んでいく。ちょっとした音の響き、音色の差が曲の姿をがらりと変えてしまう。指のはなし方つなぎ方と、事はどんどんデリケートになって行き、聴覚の神経はますます鋭くピアノの音に密着する。そこへ突然、「毎度お騒がせして申し訳ございません。おなじみのちり紙交換車でございまーす」との大音声が耳をつんざいた。私はとび上がりそうになった。

 家に土足で踏みこんでくるという表現があるが、まさにそれである。土足で踏みこんでくれば姿があるから家宅侵入罪が成立し、警察に引き渡せば解決がつく。が声は姿がないだけに始末が悪い。お騒がせして申し訳ございません? 悪いのがわかっていればやめれば良いでしょ。大体日本語の「すみません」という言葉がこの頃は乱用されすぎている。よくある「謝れ」「謝れば良いだろう」という会話が示すように、謝意を表現すればそれですむという、形態だけがまかり通っているから、こんなとんでもない事が許されてしまう――ノダ、と腹立ちまぎれに日本語全体にまでとばっちりが行ってしまう。

 私の知人がヨーロッパから帰って来て、「成田の騒音はすごいですね」と言う。「お疲れさまでございます」から始まって歩道ベルトの乗り降り、税関の注意、パスポート検査場への並び方。「あげくのはてにパスポートの持ち方まで、とにかく飛行場を出るまでに、アナウンスは二重にも三重にも重なって途切れる時がないんだから」と彼は苦笑いをしながら言った。それはもう言葉という形をもった騒音群にすぎない、と。

 昨年四月ごろ、国鉄の神田駅などでアナウンスを一時全部消してしまうという試みが行われた。そしてそれは成功で好評だったということだった。私はそれを新聞でよんだ時、雲の切れ目から落ちる一条の日光の明るさを感じた。が相変わらず何を言ってるか判らぬ駅のラウドスピーカーからの音塊をきくたびに、あの一条の日光は夢だったのかとがっかりする。騒音の上に親切という言葉をペンキで塗りたくって押しつけてくるのはもうごめんだと、私は怒り狂っているのでアル。

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 この本が出版されたのは1985年のようですが、何が怖いって、ここに書かれている日本の騒音事情が、30年後の今もまったく変化していないことです。変化がないどころか、ますますひどくなっていく一方であることです。本会が結成されたのは偶然にもほぼ同じ1984年ですが、その後も日本の音環境は劣悪になるばかり。
 『「静かに笑顔で」商売するアイスクリーム屋』というエントリーで紹介したロンドンの音事情と比べれば、日本というのは進歩するということをやめてしまった、どうしようもない「音の後進国」であることがよくわかります。

 何も音楽家でなくたって、もう少し「この国のうるささは、なんなんだ」と考える人がいてもよさそうなのに、むしろ反対に、誰も彼もが「もっとうるさくしてえええ! どんな場所でも私に命令して、指示して、ああしろこうしろ、これを聞けと言い続けてえ!」と要求し続けるこの国に、このエッセイで言うところの「日光」なんか差すことはないのかもしれません。すっかりどんよりと、分厚い雨雲に覆われてしまっていて、誰もそれを追い払おうとはしないんですからね(というか、雲に覆われていることそれ自体に気づきもしない)。

 このエッセイをはじめ、音楽家の文章を読むと、ときおり、日本の音環境を嘆くものが出てきます。それはそれでうれしいのですが、実は日本をこういう「どうしようもない音の後進国」にしているのは、音楽家や音楽好きと言われる連中の責任でもあるのですよ。
 それについては言いたいことがたくさんあるのですが、またの機会にします。
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カテゴリ:騒音をめぐるあれこれ
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Author:S.B
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